投手論
吉井理人
【第4章 エースの条件】
[佑ちゃんはパワーピッチャー]
・「前」というのは根本的には間違っていない。だが厳密い言うなら「前」ではなく、体に一番力が乗る前で放すのが重要だ。あえて意識して前で放そうとしなくとも、しっかり体重を乗せて、胸をグッと前に貼り出せば、どこで放そうと、自ずとボールは体の前で放たれていく。投球フォームというのはそういう単純な仕組みになっているのに、彼は意識しなくてはうまく投げられないとはき違えてしまっていたようだ。
・左膝が立った状態では体の動きは止まってしまうため、腕とともに自然と膝もいい具合に力が入った状態で曲がる(この時、前に出過ぎてしまうと力は逃げてしまう)。もちろんリリースポイントは特に意識しなくとも自然と耳の横(体に一番力が入る場所)でボールを投げられるようになっていた。
・技術的に修正すべき点は数多くあったが、斎藤というピッチャーは精神的には大人で、ピッチャーらしい性格をしていた。僕はコーチになった一年目から、新人投手に、キャンプに入るまでに自分のピッチングの特徴などを自己申告させて来た。特徴を知りたいというのもあったし、選手が自分のことをどう分析しているかというのも知りたかったからだ。レポートを見てイメージ通りだと納得する選手もいれば、別のことを考えている選手もいた。斎藤の場合、大学のピッチングを見た限り、すごく変化球の比率が高く、かわそう、かわして抑えようという意識が強く見られた。それだけに「打たせて取る投手」「試合を作る投手」などと書いてくるものだと思っていた。ところが、彼は違った。パワーピッチャー。
・少し僕に計算違いがあったとすれば、斎藤が自分の力について半信半疑のまま試合に臨んでしまったことで自ら調子を崩していき、それが彼の成長を阻害してしまったのかもしれないということだ。
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